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ノスタルジーについて

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 阪急梅田駅は良い。昨年名称が変わって、厳密に言うと今は"梅田駅"ではなくて"大阪梅田駅"と呼ぶべきらしいけど、意味するところは要するに阪急電鉄、HK-01。新宿駅やら東京駅なんかよりも個人的にはよっぽど迷いやすいような気がする、大阪は梅田に位置する駅のことである。


 このように説明を終えた気になるのも束の間で、ちゃんと地図で調べてみると、例えばJR大阪駅は、所在が大阪市北区"梅田"であるにも関わらず、実は阪急電鉄・大阪梅田駅について言えば、その所在は大阪市北区"芝田"だったりする。品川区にはない品川駅、みたいな感じ。梅田の場合は、地名としての"梅田"に限らず、その周辺一帯のことを梅田と呼びましょうよ、ということで、どうもコンセンサスが得られているらしいので(Wikipediaにそう書いてある)、つまり"みんなが梅田と呼んでいるエリアに位置する、阪急電鉄の駅"と言えば、どうもこの駅のことを正しく伝えることができそうである。


 いやいや、しかしこんな説明も考えてみれば不要で、意味をなさない。不毛だ。この駅を知っている人、あるいは馴染みのある人は自動的に「あぁ、あの駅ね」と思うだけだし、馴染みのない人には「大阪某所の駅です」とだけ説明すれば足りる話だ。


 話の脱線。僕が今から話そうとしているのは、要するにこの駅についての話。名称についての云々といった話ではなく。


 再掲、阪急梅田駅は良い。何が良いかというと、この駅はいわゆる"ターミナル駅"というやつで、ホームが線路の端っこになっている駅なのである。電車は片方からしかやって来ないし、片方にしか出ていかない。入口と出口が一つになっている駅。


 こういうのは図で説明したほうが早い。阪急梅田駅は、こういう




電車が通過していく駅ではなくて、こう



いう感じで、線路の末端がホームになっているような駅なのである。


 線路なんて、よほどけったいな環状線にでもなっていない限りは、どこかに"端っこ"というのが存在するわけだし、だからこういう、「線路の末端に位置するターミナル駅である」という話は、特筆すべきほどのことでもないようにも思われる。


 ちなみに、この"ターミナル駅"という言葉について、"ターミナル"というんだからterminal( = 端末)の駅という意味であるはずだし、線路の端っこにある駅を意味しましょうよ、と取り決めるのが、僕としてはなんとなく正しいんじゃないかという気がするんだけど、どうも実際のところ"ターミナル駅"という単語は、少なくとも現在では文字通りのターミナルである駅というよりは、むしろ"ハブ"駅とでもいうような、要するに多くの路線が乗り入れて集積する駅のことを呼ぶらしい。これもWikipediaにそう書いてある。


 だから、僕が今話そうとしている線路の終端にあるタイプのホームというのは、ターミナル駅などと呼ぶよりも、「頭端式ホーム」とか、あるいは乗り入れる線の数が多ければ「櫛形ホーム」と呼ぶのが正しいらしい。上から見るとホームの形が櫛みたいになっているから。分かりやすい、分かりやすいけど、しかし。うるさい、私は「ターミナル駅」と呼びたいのだ。僕が僕の文章の中で、僕のルールでモノを語るのは勝手だ。そう呼ばせてほしい。僕はあくまでもターミナル駅と呼ぶ。


 この頭端式ホームの駅というやつ(先程申し上げたとおり、私は「ターミナル駅」と呼びたいのだ。いや、でもしかし、僕は本質的に、誰かと争うことがしたいわけでもない)は、とても良い。到着したときには、いかにも「着いたぞ!」という気がするし、出ていくときにはなんとも、後ろ髪を引かれるような、そういう出発の感覚を与えてくれる。ホームは屋根に覆われて、線路の向こうには外の世界が広がっている。改札が電車の正面に位置していることも、なお良い。改札を通過するときにも、いかにも出発、あるいは到着の駅という感じを掻き立ててくれる気がする。


 先程申し上げたとおり、こういう頭端式ホームというやつは、特段珍しいものかと言えば、そういうわけでもない。たぶん国内外、こういう類の駅は、結構な数あることだろうと思う。


 例えばどこだろうか。ヨーロッパだったらサン・ラザール駅とか、チューリッヒ中央駅とか、ミラノ中央駅とか。東京だったら小田急線新宿駅とか井の頭線渋谷駅もそうだし、他にも例えば香川の高松駅とかもそうだったりする。別にこれらの駅に限った話でもなくて、要するにこういう頭端式のホームっていうやつは、結構あちこち存在する。


 とはいえ、特段珍しくないとは言いつつも、この阪急・大阪梅田駅は、頭端式ホームを持つ駅としては、結構大きい駅であるのだ。この駅には京都線、宝塚線、神戸線、合わせると1から9番線まで乗り入れているわけだけど、この9番線まであるというのが、どうも調べてみると、頭端式ホームをもつ駅としては、国内最大であるらしい。


 鉄道事情のことはあまり良くわからないけど、通常多数の路線が乗り入れるような大きな駅になれば、このような頭端式ではなくて、片側からやってきて、もう片方へと出ていくような、そういう、普通の通過式の駅のほうが効率が良いんだろうなぁ、というイメージはなんとなく持てる。だからこういう、多数の路線が乗り入れる駅の中で、かつ頭端式ホームを有する駅としては、阪急梅田駅は実際に、結構貴重な駅であるのかもしれない。それこそ、非常にクラシックで、文字通りの、極めて理想的な"ターミナル駅"であるのだ。だから良い。


 そういえば、日本最大というわけではなかったけれど、東急東横線・渋谷駅の旧ホームも、このような頭端式のホームであった。東横線渋谷駅は、2013年の3月に副都心線との直通運転が始まって、旧高架ホームは利用されなくなり、以来、現在の地下ホームになった。現在の地下ホームは直通運転のために普通の通過式のホームとなっているが、昔は渋谷駅が終点であったので、その旧高架ホームというやつは頭端式のホームであったのだ。今からもう7年も前の話だ。


 阪急梅田駅と比較すれば、たった4つの線しかない、特段大きいというわけでもないホームであったけど、ルーローの三角形を逆さまにしたみたいな、よくわからない形の壁に両側を挟まれた旧ホームは、なんだか結構記憶に残っている。


 副都心線との直通運転が始まったときには、僕はまだ東京での生活を初めて2年ばかりだったし、なんというか例えば、「あぁ、私の愛すべき!青春を過ごした、思い出の全部、いやほとんど人生とも言える、あの渋谷駅が!」というような、劇的な名残り惜しさみたいなものはなかったものの、なんというか、そういう"変化"というものを自分の目で見ておくべきであるような気がして、直通運転へと切り替わる前に、用もなく、その旧高架ホームが利用される最後の日を見に行った記憶がある。実際「長年利用した私の渋谷駅」、というようなロングユーザーでこそなかったけど、あのホームの雰囲気は好きだったし、結構寂しい気持ちになったような気がする。7年も前の自分の感情を正しく思い出すことができるのか、と問われれば、少し閉口してしまうけれども。


 そういえば去年の夏頃、僕がこの関西に移り住むことが決まった電話を受け取ったときにも、たしか僕は、この渋谷の旧東横線ホームのあたりを散歩していたのだ。旧高架ホームそのものは今ではなくなってしまっているわけだけど、現在は渋谷ストリームとかいう名前の複合施設の延長みたいな感じで、その跡地を歩くことができるようになっている。だからあのルーローの三角形をひっくり返したみたいなオブジェクトは、今でもかろうじて見ることができる。これは単なる偶然だけど、こうやって思い出すと、なにかの暗示であるような気もしてくる。いや、実際に単なる偶然なのだけど、要するになんとなく思い入れのある場所であったりするのだ。


 こういう、自分にしか分からない些細な伏線の回収みたいなものが多くなっていくのは、少し切ない。なにより、思い出すことばかりが増えていくのは、とても気が滅入る。世界やら社会やらは常に変化していくし、自分もじりじりと年を重ねていく。高輪ゲートウェイはできたし、原宿は新駅舎となった。これらは僕にはあんまり思い入れのある場所ってわけでもなかったけれど、誰もがみんな、変化に追いつくのが難しいのであれば、はじめから変化しないほうが世のためなんじゃないか、みたいな気もしてくる。つまりノスタルジー、あるいは懐古主義。


 しかしまぁ、たぶん、世界の終わりにノスタルジーは成立しない。そうも思ったりする。


 もし世界が本当に終わってしまっていて、鳥たちが同じ数だけ鳴き、何も生まれず、何も失われず、儀式のための太陽のもとで、人々が日々を、ただ繰り返していくのであれば、何をも懐かしみようがない。


 変わりゆくから懐かしいのだ。未来の懐古は常に今作られている。たぶん。そう考えることが救いであるのかどうかは、私には分からない。


 それでも(幸か不幸か)、気が滅入っても季節は回る。


 この世の終わりまで無限に続くのではないかと思われた猛暑の夏も、ちゃんと終わって秋になる。


 一度文字に起こしてしまった感情は、歌われない。


 この話は第二章に続く(続かない)。


 
 
 

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