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バイパス比0.76、僕らはすでに空を見上げすぎていた。



 友人の結婚式に参列するために、東京から広島まで行ってきた。



 それなりに僕が信じていることの一つとして、友達に順位とかそういうものはないというものがあるため、その友人が自分にとって何番目に大事な友人であるのかとか、そういう野暮な話をするつもりはないのだけれど、とはいえ彼は、今でもしっかり付き合いがある友達の中で、客観的事実としても最も古くから付き合いのある友人であったので、要するに一言で言ってしまえば親友であった。


 日帰りで帰ってこなければならない都合があったので、朝と終電の新幹線を往復することになった。自分の都合とはいえ、1日のうち、4時間程度の用事のために10時間かけて電車と新幹線に揺られて往復することになって、なんと言ったらいいか、少なくとも賢いスケジュールではないような気がしていた。




 でも10時間はあっという間だった、結局。結論としては。




 行きの5時間は友人代表挨拶の練習を寝不足の脳内でひたすら繰り返して暗記していたらあっという間に着いてしまったし、帰りはなんだか、物思いにふけっているうちに着いてしまった。


 これからする話をその結婚式の挨拶で話した、というわけじゃないんだけど、その友人とのとあるエピソードを、なんとなく思い出して、なんとなくここに書き留めている。




 たぶんもう5年くらい前に(人はこのようにして何かを思い出すたびに月日の流れと、その流れの早さに辟易としなければならないのだろうか?)、航空機オタクだったその友人に連れられて、入間航空祭を観に行ったことがある。


 航空祭というのは、要するに航空自衛隊が開催する航空機のイベントで、各種航空機の展示が見られたり、編隊飛行を観ることができる。「ブルーインパルス」というスモークを焚きながら様々なパフォーマンスをするアレ、と言えばいくらか知っている人も多いのではないかと思う。



 正直、僕はそれに強く興味があったというわけじゃないんだけど、その友人に誘われて、なんとなく観に行くこととなった。



 当時僕が住んでいたところから決して近いとは言えない場所にあった入間市の会場に着いて、それから色んな種類の飛行機とかヘリコプターとかを見ながら、友人に説明をしてもらった。


 テレビで見たことはあったブルーインパルスの編隊飛行も、実際に目の前で見られたりして、実際、航空祭は航空機に詳しいというわけでもなかった僕でも、結構純粋に楽しかった。ブルーインパルスのパフォーマンスは美しかったし、ジェットエンジンが鳴らす音が近づいたり離れたりしていく臨場感を体験することができて、楽しかった。

 それからC-1っていう、胴体の大きい輸送機があるんだけど、ずんぐりと身体の大きいそれら4機くらいが一瞬のうちに向きを変えて旋回していく様とか、僕は結構好きだった。


 会場には『F-2』という戦闘機が展示されていた。柵越しに遠目でしか見られないようなかたちで置かれていただけなのだけど、形状の立体感とか、生で見るとやはりなかなか迫力があった。

 友人と「F-2は飛ばないのかなぁ?」なんて話をしていたけれど、やっぱりこれに関しては最後の最後まで、ただ遠目に展示されているだけだった。


 サングラスを持ってこなかった僕らは、目を細めたり、手をかざしたりなんかしながら、そういうのを見上げて(そしてたまに首を下に向けてほぐしたりして)、空を飛ぶ航空機たちを眺めていた。




 イベントが終わって会場から駅へ向かう途中、僕らは色んな感想を言い合った。僕のお気に入りはC-1輸送機で、彼は各種機体やパフォーマンスに対して、それぞれ随分色んな説明をしてくれた。




 たしかちょうど、そんな話をしながら、住宅街の真ん中を歩いている時だった。




 どこからともなくジェットエンジンの轟音が聞こえてきた。


 さっきまで聞いていたブルーインパルスとかC-1輸送機とかの音とは、比較にならないくらいの大きな轟音だった。




 それはF-2戦闘機だった。


 おそらく、さっきまで展示されていた機体が、帰還するために飛び立ったのだろうと思う。




 姿が見えたのはほんの一瞬だった。


 F-2は遥か上空を、矢を刺すように突き抜けていったし、なにより僕らはすでに空を見上げすぎていた。


 けたたましい轟音を響かせながら空高く突き抜けるF-2は、一瞬のうちにして遠くの空の向こうに消えていった。



 友人は興奮して、「やっぱバイパス比ちげぇわ(※1)」とかなんとか言っていた。






 それは航空祭が終わったあとの、ほんの一瞬の出来事だったし、その光景が今、何かのメタファーになっているわけでもない。




 でも、何もない住宅街で、友人と必死になって空の向こうを目で追いかけたあの風景を、僕はきっとこれから先、たぶん忘れることはないんだろうな、と思う。




 今、なんとなく、そう思う。









※1 素人的に簡略化して、おそらく厳密には正しくないかもしれないざっくりとした説明をしてしまうと、ジェットエンジンには「バイパス比」という空気を取り込む割合を表す指標があって、旅客機なんかは高バイパス比、低推力、低騒音であるのに対して、戦闘機などには運動性能が求められるので、低バイパス比、高推力、高騒音となる。勝手な推測だけど、航空祭でF-2が飛ばなかったのは重要な機体であるからとかそういうの以前に、うるさすぎて迷惑がかかるからだったのかな?とか今は思う。





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